日本遺産から国の重要文化財へ

明治時代から関門海峡を照らす、 現役の洋式灯台

北九州市市民文化スポーツ局文化企画課
学芸員 立野康志郎

部埼灯台
部埼灯台

近年、国や地方自治体では、地域に残された文化財を、情報発信や観光資源として積極的に活用する施策を展開しています。「日本遺産(Japan Heritage)」もその一つで、2015(平成27)年に国(文化庁)が創設した新しい制度です。

 

日本遺産とは、地域に残された歴史的な出来事や伝承、風習などを一つのストーリーとしてまとめ、それを基軸として、地域特有の魅力を発信・整備していくための国の認定制度です。

 

北九州市では、下関市と共同で、関門海峡沿岸に残された近代化遺産群を「主人公(=構成文化財)」として、「関門“ノスタルジック”海峡~時の停車場、近代化の記憶~」と銘打ったストーリーにまとめ、2017(平成29)年4月に、日本遺産の認定を受けました。このストーリーを構成する文化財の一つに明治時代に建てられた「部埼(へさき)灯台」があります。
部埼灯台は関門海峡の東口、瀬戸内海に突き出す部埼の尾根上に所在します。高さ約10メートル、明治初期に自然石で建造された現役の航路標識(灯台)です。英国人技師R・H・ブラントンの建築指導により、西洋式の意匠や建材を用いて築造され、1872年3月(明治5年1月※旧暦)に初点灯しました。関門地域においては、昔から、同時期に建造された、関門海峡の西口、六連島(むつれじま/山口県下関市)の六連島灯台と「双子灯台」として親しまれてきました。日本遺産のストーリーでは、関門海峡沿岸における最古の洋風建築として、当地の近代化の幕開けを告げる建築物として紹介し、日本遺産認定後は、部埼灯台や関門海峡の知名度向上にむけた活動を行ってきました。そのような中、2020(令和2)年12月、部埼灯台は、「双子」の六連島灯台とともに、わが国の近代史・海上交通史上の価値が高いと評価され、国の重要文化財(建造物)に指定されました。

部埼灯台旧官舎
部埼灯台旧官舎

 

 部埼灯台はこれまで、県や市などの文化財指定を受けておらず、いわゆる「未指定」の文化財が一気に国の文化財へ指定されることになりました。このこと自体も非常に珍しいことですが、部埼灯台の文化財指定に際しては、六連島灯台を含む全国4基(部埼・六連島・角島・犬吠埼/いぬぼうさき)の灯台が、「現役の灯台」として日本で初めて国の重要文化財に指定されました。ちなみに、敷地内には灯台と同時期に建設された旧官舎、旧昼間潮流信号機も残されており、これら付属施設も併せて保存を図ることとなりました。初点灯から150年もの間、関門海峡を照らし続けてきた灯台が、歴史的建造物として“脚光を浴びる”ことになったのは、建物を大切に守り伝えてきた所有者と、清掃活動を継続してこられた地元有志の方々の努力のたまものです。北九州市内では、駅舎として全国初の重文指定を受けた門司港駅(旧門司駅)に続き、2件目の全国「初」の重要文化財が誕生しました。

旧昼間潮流信号機
旧昼間潮流信号機

部埼灯台は、明治時代から変わらず、関門海峡を行き交う多くの船を見下ろせる大変ロケーションのよい場所に建っています。目前まで近寄って見学することができます。ぜひ部埼灯台にお越しいただき、併せて関門地区の日本遺産構成文化財もご覧ください。

 

Information
部埼灯台
【所在地】
門司区大字白野江字部埼20の1
【Webサイト】
日本遺産ポータルサイト
http://japan-heritage.bunka.go.jp
関門“ノスタルジック”海峡公式ホームページ
https://www.japanheritage-kannmon.jp
【お問合せ】
北九州市市民文化スポーツ局
文化企画課文化財係
電話:093-582-2391

※この記事は情報誌『CulCul・かるかる』2022年3・4月号に掲載したものです。

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