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[情報誌vol.Q85特集]マイスター・アールト×ライジングスター オーケストラ 音の交歓と対話が紡ぐ地域の未来

[2026年3月4日公開]

北九州国際音楽祭で存在感を放つ、“北九州発”のマイスター・アールト×ライジングスター オーケストラ。トップ奏者(マイスター組)と若手(ライジングスター組)が指揮者なしで共演し、篠崎史紀(まろ)が牽引する。世代を超えた緊張感と一体感が魅力で、“MAROオケ”として親しまれ、音楽祭の象徴となっている。


マイスター・アールト×ライジングスター オーケストラ 音の交歓と対話が紡ぐ地域の未来

(取材・文:槇原 彩/九州大学大学院芸術工学研究院 助教)

“指揮者なし”で演奏するというMAROオケならではの手法も魅力の一つとなっている。
“指揮者なし”で演奏するというMAROオケならではの手法も魅力の一つとなっている。

舞台袖で緊張と期待を抱えながらステージを見つめる若い演奏家たち。客席には、開演前の静かな高揚を楽しむ聴衆の姿。毎年秋になると、響ホールには、あたたかく、そして若々しいのびやかなオーケストラの響きが満ちていきます。

北九州国際音楽祭は、昭和63年(1988年)、市制25周年をきっかけにスタートしました。暮らしを彩る文化を市民とともに育てることを目指し、多くの支援のもと、国内外からアーティストを迎えながら歩みを続けています。創造性豊かな企画、世界へつながる扉、すべての人にひらかれた音楽との出会い、次代を担う子どもたちへのまなざし――。そこには、「人と音楽が出会う瞬間」をそっと守り育てる姿勢が脈々と息づいています。

そうした思いを象徴する存在のひとつが、北九州国際音楽祭のレジデント・オーケストラとして活動する「マイスター・アールト×ライジングスターオーケストラ」(通称 MAROオケ)のプログラムです。2025年11月23日(日)。この日も、国内外から演奏家たちが響ホールへ集い、ベートーヴェンの《交響曲 第9番 ニ短調 op.125「合唱付き」》を奏でました。


祝祭と日常が交わるひととき

MAROオケでは、クラシック音楽界を牽引する名手たちと新しい時代を切り開く若い才能が肩を並べ、互いの音を聴き合いながら楽曲へ真摯に向き合います。そこにあるのは同じプロフェッショナルとして生み出す、濃密で伸びやかなアンサンブルです。

また、北九州国際音楽祭を彩る祝祭的なオーケストラでありながら、子どもたちを対象にしたワークショップや学校鑑賞教室、若手音楽家を育てる育成プログラム、そして地域イベントとのコラボレーションなど、多彩な取り組みへと活動の幅を広げています。たとえば「ヴァイオリンが上手くなるひみつ+北九州空港祭」や「まるっとEnjoy!響ホールで夏休み」などは、子どもたちにも楽しく開かれた機会として親しまれ、クラシック音楽への入口をやさしく開く場となっています。こうした活動の積み重ねによって、今やMAROオケは市民の日常の中に音楽が息づく環境を支える存在となりました。

マイスター組とライジングスター組が意見を出し合いながら楽曲を仕上げていく。リハーサルは、MAROオケの魅力が大切な時間。
マイスター組とライジングスター組が意見を出し合いながら楽曲を仕上げていく。リハーサルは、MAROオケの魅力が育つ大切な時間。

音楽が創る地域の文化

MAROオケから飛び立った若手演奏家たちが、今や国際的に羽ばたいています。そして彼らは、北九州国際音楽祭だけでなく、北九州市芸術文化振興財団の年間リサイタルやサロンコンサート、学校鑑賞教室、アウトリーチなどにも出演し、子どもたちや市民と心を通わせながら、音楽の魅力を届けています。音楽の豊かさや表現の奥行きに出会うことは、子どもたちの感受性を大きく育て、未来の選択肢や体験の幅を広げるきっかけにもなります。その種が芽吹き、やがて地域全体の文化を支える力へと育っていく――その循環を支えているのが、北九州国際音楽祭や響ホールの取り組みです。祝祭的な輝きが地域の日常へと、やわらかくつながっていくのです。北九州国際音楽祭の理念である「交歓」と「対話」は、華やかな瞬間だけでなく、こうした日々の積み重ねの中にも宿っています。それは、北九州国際音楽祭そして響ホールという芸術文化拠点が、時間をかけて育んできた文化的な価値にほかなりません。

私立幼稚園連盟との取り組みの一つである北九州市内幼稚園での鑑賞教室。
私立幼稚園連盟との取り組みの一つである北九州市内幼稚園での鑑賞教室。

視点―篠崎史紀氏にきく
(愛称“まろ”。北九州市文化大使/マイスター・アールト×ライジング スターオーケストラ コンサートマスター/元NHK交響楽団特別コンサートマスター)

(c)井村重人
(c)井村重人

クラシック音楽は「再生」し、そして「伝承」していく必要があります。「伝承」を行うことで、次の新しい「伝承」が始まります。言い換えれば、これは「守破離」の考え方に通じます。しかし重要なのは、それを教育として教えていくのではなくて、現場で一緒に創っていくことだと思っています。

僕たちには経験値があり、答えも意外と知っています。だから、ある程度は物事を決めることができます。でも、決めてしまえばあとは遂行するだけです。自分で考えることをやめてしまう。そうすると、「守破離」にはならないのです。「守」になる部分は教えますが、その先は自分で考えることを体験してほしい。そうすれば、別の場所へ行ったとき、新しいメンバーとどんどん実験ができるようになりますし、そこから新しいものが生まれていくのではないでしょうか。

色々なものを知ることが大事です。物事を知ったことに対して、無駄なものは世の中にひとつもありません。それを自分のためにどう役立てるか。それを自分で考える力が必要なのです。MAROオケではその力をもった演奏者がたくさん育っています。

また今回の取り組みも、北九州国際音楽祭の事務局は非常に頑張ってくれました。演奏家一人ひとりと個別に契約を交わすという、大変手間のかかる作業をしっかりとやってくれました。これは裏を返せば、これだけのアーティストを北九州が抱えたということでもあります。だから、「北九州に演奏会に来てくれませんか?」と言えば、皆さん懐かしさから帰ってきてくれます。これからはアーティストたちが「帰ってきて演奏をする機会」をもっと作れたらと思っています。これだけのアーティストを抱えたマネジメントというのは本当にすごいことです。それをもっと活用していかなければいけません。事務局も次の段階へと進化していく必要がありますし、マネジメント側のスキルアップも楽しみのひとつです。

地元は、自分が形成された最も大切な場所です。だからこそ、地元に帰ってこられること、みんなが「ここに帰りたい」と思ってくれることは、本当に嬉しいことです。北九州市は僕の育った土地ですが、MAROオケのメンバーにも北九州を「次の故郷」のように感じてもらえたらと思っています。


ライジングスター組 西川奈那さん
(桐朋学園大学音楽学部2年 ヴァイオリン奏者)

 

MAROオケで演奏することは、音楽を学ぶ学生にとって憧れであり目標でもあります。第一線で活躍するプロの奏者に混ざって演奏でき、リハーサルでは貴重なアドバイスもいただくことができます。何より、その背中から学ぶことが多く、貴重な体験です。

響ホールのお客様はとてもあたたかく、会場はいつも熱気に包まれています。昨年来場したお客様がまた今年も聴いてくださっているかもしれないと思いながら演奏していました。「第九」の演奏後にはブラボーの声や拍手が響き、胸がいっぱいになりました。お客様の表情から「私たちの音楽を共有できたんだ」と実感でき、忘れられない光景になりました。


ライジングスター組を経て、現在新日本フィル首席奏者の菅沼希望さん
(新日本フィルハーモニー交響楽団 首席コントラバス奏者)

 

北九州に来ると、ホームに戻ってきたような感覚があります。MAROオケは大人も若者も隔たりなく、みんなで遊びながら音楽を創っている感じです。篠崎史紀さんの懐の深さがあるから、皆のびのびと演奏できるのだと思います。一緒にひとつのものをつくるのはとても意義のある経験ですし、北九州国際音楽祭だからこそ、できる企画だと思っています。

参加を重ねる中で、最初は教わる立場だった自分も、今では教える立場になりました。メンバーは移り変わっても、受け継がれているものが確かにあると感じています。

北九州で国際音楽祭を実施していること自体が、市の文化レベルの高さを示していると感じます。これからも一緒に盛り上げていきたいと思っています。


MAROオケ派生事業
「まるっとEnjoy!響ホールで夏休み」

響ホールで夏休みを“まるっと”楽しめる、子どもから大人まで参加できる体験型コンサート。気軽に音楽に触れられるのが魅力。

まるっとEnjoy!
「まるっとEnjoy!響ホールで夏休み」チラシ

「まろさんのヴァイオリンがうまくなるひみつ」

ユニークな指導法で、演奏が劇的に変わっていく!
ユニークな指導法で、演奏が劇的に変わっていく!

 


北九州の街角に音楽祭の彩りを

市内にあるストリートピアノ(5ヶ所)をラッピング。
街角で音楽に親しむ機会が広がりました。

ストリートピアノ
北九州市役所1階
ストリートピアノ
JR小倉駅
ストリートピアノ
アジア太平洋インポートマート
ストリートピアノ
関門海峡ミュージアム
ストリートピアノ
北九州空港

北九州国際音楽祭が北九州空港まつりに参加しました!

「まろさんのヴァイオリンがうまくなるひみつ」受講生で、中学生の濱田理誉さんが演奏を披露しました。
「まろさんのヴァイオリンがうまくなるひみつ」受講生で、中学生の濱田理誉さん他が演奏を披露しました。

「情報誌Q vol.85」PDF版(公開中!)

ぜひご覧ください。

※この記事は情報誌『情報誌Q vol.85』2026年3月号の特集を元に編集・掲載しています。

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