【インタビュー】 Noism |全身全霊で世界と闘う舞踊団、北九州へ!ー前編ー

取材・文/重岡美千代

2024年12月の北九州芸術劇場 Noism0/Noism1「円環」公演を前に、Noism芸術総監督の金森穣氏、国際活動部門芸術監督の井関佐和子氏にお話を伺いました。

アーティスト写真
[左]金森穣/(C)篠山紀信[右]井関佐和子/(C)松崎典樹

2004年、新潟市で日本初の公共劇場専属舞踊団が生まれた。

立ち上げから20年、金森穣が率いるNoism(ノイズム)は、自らの身体と精神と本気で向き合い、取り巻く社会や時代、世界と勝負してきた。

長年、多くの人々を魅了し続け、魂を震わせてきたNoismが、次の一瞬に手渡そうとするものは何なのか。

舞踊ファンはもちろん、未来ある子どもたち、ジャンルや世代を超え、多くの方々に、この舞台をぜひ目撃してほしい。

 

Noism×鼓童『鬼』
Noism×鼓童『鬼』(C)村井 勇

 

世界と真摯にわたりあう

プロフェッショナルな集団

 

─Noismは、プロフェッショナル選抜メンバーによるNoism0(ノイズムゼロ)、プロフェッショナルカンパニーNoism1(ノイズムワン)、研修生カンパニーNoism2(ノイズムツー)の3つの集団があり、国内・世界各地からオーディションで選ばれた舞踊家が新潟に移住し、年間を通して活動。メンバーは1日6時間以上もの時間を身体訓練に費やすと聞きました。

 

金森 世界の超一流とわたりあうためには、それぐらい訓練しないと辿り着けない領域がある。我々はこの生身の身体を鍛練する独自の手法(Noismメソッド/Noismバレエ※1)をもって、舞踊の本質に向き合い続けています。分かりやすくいうと、「舞踊家の身体ってすごい!」と理屈抜きに伝えられる集団であることを目指しています。新潟の舞踊団を観るというよりは、世界と勝負している舞踊団を観る、と思っていただければ…。

 

井関 私は日本人で、自分の身体が明らかに欧米の人たちと違うと認識していますが、子どもの頃から西洋のバレエを習い、10代はヨーロッパで舞踊家として活動していました。20代半ばで日本に帰ってきてからは、「Noismメソッド」「Noismバレエ」という世界に一つだけのメソッドのもと、その上に成り立つ作品を踊っています。ダンスを取り巻く時代も環境も世界も変わってきていて、これからは自分たちのメソッドを持った上で世界と勝負することが重要になるのでは、と感じています。それをやり続けてきた今では、シンプルに「身体、すごかったね」と思ってもらえる確信はあります。北九州から遠く離れた新潟という場所に、公共劇場専属の舞踊団があって、そこでメンバーは朝から晩まで稽古して、踊りのためだけに生きている。そういう姿を子どもたちが見た時に、「自分もいつか…」と思ってもらえたら嬉しいです。

 

『Amomentof』撮影 松橋晶子
『Amomentof』(C)松橋晶子

 

 

金森 公共劇場専属の舞踊団は、公的な資金で運営されています。では、「公共性」とは何か。たとえば、我々がやっている自分の身体と向き合うというのは、突き詰めると本当に奥深いことで、ものすごい時間とエネルギーのかけ方を必要とします。それだけの時間とエネルギーをかけなければ生み出せないものを、あえて生み出すのもまた公共の施設としての役割ではないか、と主張してきました。多くの岐路がありましたが、これまで要所要所で必ず理解者が現れてくれ、支援してくださって今がある。いろんな方々に助けられた分、その人たちに信じ続けてもらえるように、我々もこの身体を通しての表現に、一層献身していかなければ、と思っています。

 

17年ぶりの北九州公演

ゲスト振付家は近藤良平

 

─北九州公演は井関さんが芸術監督を務める[円環(ENKAN)]と題したトリプルビル※2で、ゲスト振付家が創るNoism1新作と、レパートリー作品、Noism0新作の3本立てとなっています。

 

井関 ゲスト振付家として迎える近藤良平さんとは、『犬的人生(2005)』以来19年ぶりのクリエーション。Noism0新作には、元メンバーでもある舞踊家の宮河愛一郎と中川賢がゲスト出演します。縁ある人たちが一堂に会して巡る「円環」。いろんなエンの意味やカタチがあることを分かった上で、そこから飛び出したいというのが今の正直な気持ちです。これが終わりでもないし、再び巡ってくるものでもない。円環とはいえ完結するのではなく、過去があって、今があり、そしてその先へ─終わらない何かを感じています。

 

金森 / 近藤良平さんの舞踊家に対するアプローチの仕方は、自分とはまったく違う点が魅力です。前回はNoismも始まりたての頃で、ギリギリまでテンションを巻き上げてやっていた時に、良平さんが「もうちょっとリラックスしていこうか」と入ってきたのが印象的でした。それもNoismがやらんとすることを理解し、リスペクトしてくれた上での揺さぶりのようなもの。我々が日常の活動で見落としているものをいかに気づかせるか。良平さんならではのアプローチに触れることで、金森穣とクリエーションしているだけでは得られない、何かが起こることを期待しています。

 

井関 / 振付家によって、それぞれ舞踊家の引き出し方があると思うんですが、良平さんの場合、そこまで張り詰めた空気をあえて作らないことによって、舞踊家の内奥にある大事なものを引き出すのが得意なんじゃないかと思うんです。今回良平さんが、いつものNoismとは違う方法で、若い舞踊家たちの本質みたいなものを見つけてくださるんじゃないかと楽しみにしています。


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インタビュー後編はこちらから

12/22(日)J:COM北九州芸術劇場にて上演 Noism「円環」公演情報はこちら

 

※1 Noismメソッド/Noismバレエ

舞台における舞踊家の身体とは、どのような状態であるべきか。それを追求する手法として金森穣が独自に開発したトレーニング方法。西洋で生まれ発展した舞踊の技法や身体文化に、東洋的な水平軸の発想を取り入れ、“張りのある身体”を養う。

 

※2 トリプルビル
3本立て公演。「円環」ではNoism0新作『Suspended Garden』(仮)、Noism1新作『にんげんしかく』、Noismレパートリー『過ぎゆく時の中で』の3作品を上演。


 

◎金森 穣 Jo KANAMORI

 Noism Company Niigata 芸術総監督/演出振付家/舞踊家

演出振付家、舞踊家。Noism Company Niigata芸術総監督。17歳で単身渡欧、モーリス・ベジャール等に師事。NDTⅡ在籍中に20歳で演出振付家デビュー。10年間欧州の舞踊団で舞踊家・演出振付家として活躍後帰国。04年4月、日本初の劇場専属舞踊団Noismを立ち上げる。平成19年度芸術選奨文部科学大臣賞、平成20年度新潟日報文化賞、第60回毎日芸術賞ほか受賞歴多数。令和3年紫綬褒章。

 

◎井関 佐和子 Sawako ISEKI

 Noism Company Niigata 国際活動部門芸術監督/Noism0

舞踊家。Noism Company Niigata国際活動部門芸術監督。16歳で渡欧、チューリッヒ国立バレエ学校を経てモーリス・ベジャールらに師事。NDTⅡ等で活躍の後、04年4月Noism結成メンバーとなる。金森穣作品においては常に主要なパートを務め、日本を代表する舞踊家の一人として高い評価と注目を集めている。第38回ニムラ舞踊賞、令和2年度芸術選奨文部科学大臣賞受賞。

 

◎Noism Company Niigata
 ノイズム・カンパニー・ニイガタ
りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館を拠点に活動する日本初の公共劇場専属舞踊団。2004年設立。Noism0、Noism1、Noism2の3つの集団からなり、国際活動部門と地域活動部門の2部門体制で、今この時代に新たな舞踊芸術を創造することを志している。
Noismの由来は「No-ism=無主義」。

 

※この記事は情報誌『情報誌Q vol.81』2024年11月号の特集を元に編集・掲載しています。

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