2024年12月の北九州芸術劇場 Noism0/Noism1「円環」公演を前に、Noism芸術総監督の金森穣氏、国際活動部門芸術監督の井関佐和子氏にお話を伺いました。
[前編から続く]
今回の公演タイトル「円環」からは、過去からの呼び声と、今まで積み上げてきたものと、未来へ託したいものとが舞台上に巡るようなイメージが広がる。
作品について、お二人はどのように感じているのだろうか。
レパートリーの中から
とにかく踊る、作品を
─レパートリー作品『過ぎゆく時の中で』を選んだ背景などをお聞かせいただけますか?
井関 / 私たちは音楽のタイトルから「チェアマンダンス(The Chairman Dances)」と呼んでいますが、2021年の「サラダ音楽祭(TOKYO MET SaLaD MUSIC FEATIVAL)」で新作として上演されました。舞踊家にとってはテクニックの部分を強く求められる作品なので、私自身、体力的にも結構しんどい作品なんですが、若い舞踊家には短い作品の中でも己の身体と向き合う時間を大切にしてほしいと思い、とにかく踊る作品を、と選びました。
金森 / 2021年の作品なので、背景の一つにコロナ禍があります。当時在籍していた外国籍の舞踊家たちは、日本にとどまってカンパニー活動を続けていたんですが、コロナ明けには一斉に帰国することが決まっていたんです。「チェアマンダンス」は、東京都交響楽団から提案された楽曲で、タタタタタタタと、まるで蒸気機関車がバーッと過ぎていくような高揚感のある旋律が印象的。疾走感と同時に時の無常を象徴するようなインスピレーションを得て、そこに去っていく外国籍の舞踊家たちや、これまでに見送ってきた数多の舞踊家たちが重なった。カンパニーという船には、その都度、港で新しい人が乗ってきては次の港で降りていく。人々も、記憶も、すべてが走馬灯のように過ぎてゆく。楽曲から受けたインスピレーションとその時の心情がマッチする中で生まれたのが、『過ぎゆく時の中で』という作品です。
舞踊家が先に決まった
Noism初めての試み
─Noism0の新作についてはいかがですか?
金森 / 友人でもあるベトナム系フランス人のトン・タッ・アンに作曲を依頼していて、今(インタビュー時)は音楽待ちです。ただ、今回特殊なのは、企画の時点で宮河と中川をゲストに招くことが決まっていたこと。Noism0の井関、山田とともに、金森穣のクリエーションを本当によく知る円熟した舞踊家4人に、どんなものが創れるかと自分自身もワクワクしています。作曲家のアンも、Noism初期から何度もクリエーションをともにしているので、今回踊る4人のこともよく知っています。「彼らのための作品だから、彼らを思って作曲してほしい」と頼んだので、どうなるか楽しみですね。
井関 / 実は初めてなんですよ、舞踊家が先に決まった上で創るのは。今はみんなもう40代。次の段階、どういう風に自分たちが舞踊家としてこれからの人生を送っていくのか、と葛藤する時期でもあります。ゲストの2人が外で得た経験値もあれば、対する私たちはずっとNoismに居て築いてきたものもあり。お互いが刺激し合う中で、何が起こるのか、そして何ができるのか、楽しみで仕方ないという感じです。ただ、4人とも金森穣という振付家ととことん向き合ってしまう体質なので、「ケガだけは気をつけようね」と言ってます(苦笑)。
精神と肉体、そして
人間とは何なのか─
─お二人にとって、舞踊や作品づくりの核にあるものは何なのでしょうか?
井関 / 私は舞踊家だからかもしれませんが、やはりどこまで行っても身体だと思うんです。突き詰めても答えが出るわけではない、この身体の神秘というか。舞踊家って、ある種のテクニックや動きを追求することも大切なんですが、それ以外にも「自分とは何者なんだろう」と考えながら、頭ではなく身体が勝手に理解していた、という状態まで持っていくのが重要だと思うんです。これまでこの身体の神秘と向き合い続けてきて、その結果が今の表現につながっている、と確信しています。
金森 / 自分も同じですけど、ただ振付家としては、なぜ創造性に惹かれるのか。創作するとは何か。それを突き詰めていくと、「人間とは何か」という探究に尽きる。我々がどういう存在で、どういう生き物で、どういう社会を構築して、どう生きたいと思うのか。時代や歴史的背景を含め、人間のありようについて考え続けていく感じでしょうか。今の時代に流されることなく、あえて踏みとどまって、「もっと生々しい身体って何だ?我々の内側にある精神と肉体の関係性って何だ?」と向き合いたい。その深みに興味があるんです。
観終わった後に
勇気が目覚める舞台
─北九州で出会う方々へひとことメッセージをお願いします。
金森 / 世間一般で語られるコンテンポラリーダンスとは違う、と主張してきた舞踊団なので、不特定多数の方にアクセスできたら、と思っています。これまでやってきて思うのは、多ジャンルの人たちに刺激を感じてもらうためには、いかに我々の本気が大事かということ。音楽と身体と、毎日、本気で向き合っているからこそ伝わる何かがあるんだと思います。観終わった後に、「何か新しいことにチャレンジしてみよう」とか、今やっていることでも「もっと思いっきりやってみよう」とか。そんな勇気を与えるきっかけになれば嬉しいですね。
井関 / 私たちが本気で向き合わなくなったら、この20年応援してくださった方々は離れていくと思うんです。その方たちに恥じないように、常に初心のような新鮮な気持ちをもって挑みたいと思っています。観終わって夜寝た後に忘れてしまうんじゃなくて、翌朝、ふとした幸せや勇気を感じたり。いのちの中に刻まれる何らかの「記憶」として残ってくれたら…と思っています。北九州での公演は2007年以来。久しぶりに行けるのが楽しみです。
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12/22(日)J:COM北九州芸術劇場にて上演 Noism0/Noism1「円環」公演情報はこちら
◎金森 穣 Jo KANAMORI
Noism Company Niigata 芸術総監督/演出振付家/舞踊家
演出振付家、舞踊家。Noism Company Niigata芸術総監督。17歳で単身渡欧、モーリス・ベジャール等に師事。NDTⅡ在籍中に20歳で演出振付家デビュー。10年間欧州の舞踊団で舞踊家・演出振付家として活躍後帰国。04年4月、日本初の劇場専属舞踊団Noismを立ち上げる。平成19年度芸術選奨文部科学大臣賞、平成20年度新潟日報文化賞、第60回毎日芸術賞ほか受賞歴多数。令和3年紫綬褒章。
◎井関 佐和子 Sawako ISEKI
Noism Company Niigata 国際活動部門芸術監督/Noism0
舞踊家。Noism Company Niigata国際活動部門芸術監督。16歳で渡欧、チューリッヒ国立バレエ学校を経てモーリス・ベジャールらに師事。NDTⅡ等で活躍の後、04年4月Noism結成メンバーとなる。金森穣作品においては常に主要なパートを務め、日本を代表する舞踊家の一人として高い評価と注目を集めている。第38回ニムラ舞踊賞、令和2年度芸術選奨文部科学大臣賞受賞。
◎Noism Company Niigata
ノイズム・カンパニー・ニイガタ
りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館を拠点に活動する日本初の公共劇場専属舞踊団。2004年設立。Noism0、Noism1、Noism2の3つの集団からなり、国際活動部門と地域活動部門の2部門体制で、今この時代に新たな舞踊芸術を創造することを志している。
Noismの由来は「No-ism=無主義」。
※この記事は情報誌『情報誌Q vol.81』2024年11月号の特集を元に編集・掲載しています。